審査委員 総評
古谷 誠章(審査委員長)(公益社団法人日本建築士会連合会会長)
新設された「びわ湖建築賞」の審査委員長として、1月16日に一次審査、2月21日〜22日に現地審査を審査員全員で行いました。まずは応募されたすべての皆さんにお礼を申し上げます。審査会の準備、進行に尽力された運営委員各氏にもこの場を借りて感謝いたします。
この賞の新設にあたり私が提案したのは、一次審査を公開とし応募者全員が作品パネルを持参して掲示、パワーポイントによるプレゼンテーションを行い、審査員は推薦作品を記名投票するという方法で、応募者同士も相互の発表を聞き、審査後には審査員も含めて懇談するというものです。
その目的は、何よりも応募してよかったなと思える開かれた審査会として、そこからのフィードバックが得られることを期待しました。
投票結果に基づき、住宅部門5作品、一般建築部門5作品を選び、現地審査の対象としました。作品は滋賀県内の各地に広がっており、琵琶湖を一周する行程となりました。幹線道路沿いは全国一様のロードサイドの風景でしたが、そこから一筋分かれて山沿いや里の奥に入ると、それぞれに特徴的な風景が残り、その土地の風土を感じます。山裾に民家が立ち並び、また琵琶湖に向かう湿地帯の広がりを感じたり、瓦葺きの集落など、その場の風土に身を置いて、琵琶湖一円と言いながら多様な地域性を体感できました。作品もそれぞれに個性的で、まさに異種格闘技の様相でしたが、個々の背景との対話や格闘が滲み出しており、実地の体験が大いに役立ちました。
そんな中、住宅部門の最優秀賞《三大寺の家》は、集落と田んぼの境界に建ち、一回り小さなスケール感を持つ離れやキッチンを前面に置いて、家全体を小屋の集合体のように見せています。屋内外の随所に生まれる家の隙間や入念に仕上げられた左官壁面が様々な背景となって、写真家である施主夫人の撮影スポットとなっているのが秀逸で、伸びやかな周辺環境を最大限に活用して、施主の求めるもの以上のものを生み出したように思えました。
優秀賞《小野の家》は、入賞の《湖東の家》と双璧をなす新築住宅の佳作であり、共に現代住宅の良質な模範となるものでした。立地はかなり対照的で前者は郊外に風格のある石積みの造成住宅地、後者は琵琶湖に通ずる湿地帯の農地に接しています。しかしいずれもそれぞれの立地環境と巧みに応答して、その場所ならではの居心地の良い空間を生み出しています。
特別賞《来栖の家》は、道沿いの茅葺の家を再生し、離れとして近隣の人々との交流の場とした発想が素晴らしいと思います。風景の保存だけでなく、この地域のコミュニティの再生にもつながるものです。
入賞のもう一点《近江路の家》も既存民家の再生で、かつての住人の記憶をも継承してそれを楽しもうとする姿勢が独特でした。
一般部門の最優秀賞《農業と福祉の拠点「あるきだす」》も、既存民家を農業法人の拠点にしようという独創的な試みで、今日の農業を考える上でとても示唆的な試みと感じました。僕が最も可能性を感じたのがこの施設のキッチン周りで、古い架構と新しいしつらいが、新旧渾然一体となったデザインの妙が感じられます。そこで頂いた黒豆のお茶とシンプルな茶碗の組み合わせにも通じ、この感じが建物全体にもう少し施されていたらなお良いように思います。
優秀賞《立命館CVIC/GIC》は文字通り意欲作で、新たな研究領域やそこでの起業に挑む次世代の人材育成に相応しい施設デザインです。構内の主要動線と既存施設の軸を読み取って45°に振ったファサードの構成は、現地を訪れると図面以上に効果的でした。さらにキャンパス内だけでなく、広い意味での琵琶湖地域の文化的風土に対する回答や姿勢がもう少し感じられると良かったかなと思います。
特別賞《柏原駅前広場シェルター》は設計者が長くこの地域に関わってきたことが感じられる丁寧なデザインでした。このシェルターに対する愛情がひしひしと感じられてとても良かったです。
入賞の2作品《みなくるプラザ》と《琵琶湖汽船今津営業所》は、片や山中、片や湖畔と立地は対照的ですが、いずれもその場所の文脈の中を読み取ってデザインされており、素材やカラーリングなどにも工夫がなされています。
二日間の短い行程でしたが、琵琶湖の持つ豊かな表情や、各地に残る里の風景を味合うことができ、今後のびわ湖建築賞に大いに期待が膨らみました。どうもありがとうございました。
宗像 幸夫(審査委員)(滋賀県土木交通部建築課課長)
びわ湖建築賞の第1回審査に参加して、滋賀県の豊かな自然と歴史を背景にした建築作品の数々に触れ、その地域性を巧みに取り入れた設計理念に感銘を受けました。琵琶湖の水辺の静謐さや里山の温もりを感じさせる素材選択や、風土に根ざした空間づくりが多く見られ、地域との共生を深く意識した作品が際立っていました。また、現代的な技術と伝統的な手法の融合により、環境負荷の軽減や持続可能な建築の実践が進んでいることにも触れ、審査を通じて、滋賀県の自然環境を尊重しつつも未来志向のデザインが着実に育まれていることを実感し、今後の建築の発展に大いに期待をしています。他の審査委員の皆様と共に審査委員として参加させて頂いたこと、および一般社団法人滋賀県建築士会の皆様のご苦労に感謝申し上げます。
中嶋 節子(審査委員)(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)
びわ湖建築賞の第1回審査は、滋賀ならではの水と緑が織りなす豊かで多様な風土の存在、そしてそこに建つ建物の意味を改めて考える機会となりました。一次審査、現地審査を通して本賞の評価軸として重視したのは、「環境との対話」、「地域の暮らしに寄り添う姿勢」、「伝統と歴史の理解と継承」の3点です。これらの観点はもちろん、都市部に建つ建物の評価においても重要ですが、滋賀ではより強く意識すべきと考えました。最優秀賞を授賞した農業と福祉の拠点「あるきだす」は、既存の民家をさまざまな人々の居場所として開くプロジェクトで、3つの観点すべてにおいて秀でた内容でした。同賞の三大寺の家は、田を造成して建てられた分家住宅で、「環境との対話」と「地域の暮らしに寄り添う姿勢」において高く評価できる作品でした。優秀賞の立命館大学CVIC/GICは、微地形とキャンパスの文脈を読み込んだ「環境との対話」が、小野の家はボリュームを抑えた謙虚な佇まいで「地域の暮らしに寄り添う姿勢」が優れていました。そのほかの授賞作品も、いずれも栄えある第1回びわ湖建築賞に相応しい建物でした。 第2回、第3回と、今後も滋賀らしい建物が数多く応募されることを楽しみにしています。
倉方 俊輔(審査委員)(大阪公立大学大学院工学研究科教授)
第1回びわ湖建築賞の審査を通じて、滋賀という土地が持つ建築の豊かさと多様性を改めて実感した。今回の応募作品に通底していたのは、「つくること」への誠実な姿勢である。大規模な予算や派手な形態操作によらず、場所の記憶や地域の素材、そこに生きる人々の営みと真摯に向き合いながら、建築の力で何かを変えようとする意志が、住宅部門・一般部門を問わず多くの作品から伝わってきた。農村集落の空き家再生、山間地の古民家修復保存、ニュータウンの街並みへの応答、宿場町の駅前シェルター、そしてキャンパスの新たな拠点形成と、敷地も用途もスケールも異なる諸作品が、それぞれの文脈に根ざした固有の解を示していたことは特筆すべきことである。滋賀の建築家たちが地域の課題と建築的課題を分けて考えず、一体のものとして取り組んでいる姿勢を頼もしく思う。第1回というスタートに相応しい充実した顔ぶれだった。この賞が滋賀における建築文化の蓄積と発信の場として長く続くことを願う。
轟 慎一 (審査委員)(滋賀県立大学環境建築デザイン学科准教授)
第1回びわ湖建築賞では住宅部門・一般部門とも多数応募があり、多様性に富んだ見応えある作品群であった。プレゼン・ヒヤリング・現地審査等の審査が進むに連れて、応募者や審査委員・関係者の中に「滋賀らしい建築」像が醸成されていく審査過程であった。とりわけ、滋賀の風景や文化・環境にどう応答するか、は今後とも大事な視座と言えよう。轟は、滋賀県立大学環境建築デザイン学科で都市デザイン・建築空間論・景観論・住居論・都市計画・地域環境デザイン等の研究に取り組んでいる。本学は開学から30年経つが、教育研究や地域連携を通して建築家・都市計画家を送り出してきた。今回の審査委員の依頼理由の1つに、建築士会さん主催の「高校生の建築甲子園」滋賀予選で轟が審査委員長を務めていることもある。びわ湖建築賞に関係された方々とは、またいろいろな形で連携をはかり、豊潤な滋賀の建築・まちづくりをさらに推し進めていくことを願ってやまない。
梅影 義明(審査委員)(一般財団法人滋賀県建築住宅センター元顧問)
第一回作品募集であったが、県内各地から26点の応募があり、応募された設計者にまずは敬意を表します。どの作品も四季がはっきりある滋賀の特異性やその立地条件、周辺環境、景観との調和と施主及び利用者並びに住まい手の思いを如何に整合させるかを追求しながら計画し、建設に携わられたかがよく窺えられる作品が多く感心しました。短いプレゼンではありましたが、利用者や住まい手の使い勝手などの評価を混じえて伝えて頂ければより良かったのではないかと思いました。一次審査で重きを置いたのは、資料やプレゼンと併せ、ぜひ現地で審査をしたい作品であった。結果として現地調査の対象が、琵琶湖を一周するという県下全域に点在した事も今回大変良かったと思っています。又、新築や改修だけでなく、色んなジャンルの作品の応募がありその内の一点が特別賞を受賞された事は、応募の対象中の広がりに繋がったのではないかと思います。「びわ湖建築賞」が、これからの滋賀の建築のすばらしさを生み、建築の質及び社会的地位向上に寄与する一助となる事を確信し、期待をしています。
福谷 晃 (審査委員)(公益社団法人滋賀県建築士会会長)
第1回となる今回は、住宅部門13点、一般部門14点、計27点の応募をいただきました。いずれの作品も設計者や施主の真摯な思い、そして地域と向き合う姿勢が感じられるたいへん素晴らしい内容でした。
一次審査では、応募資料によるプレゼンテーションを通して審査を行い、各部門5点を選出しました。限られた資料の中から、建築の理念や空間の質、地域との関係性を読み取る審査は容易ではありませんでしたが、書類や図面、写真に込められた熱意が強く伝わってきました。二次審査では、現地審査を実施し、各部門3点を選出しました。実際に現地を訪れ、空間の広がりや光や風の取り込み方、素材の質感、周辺環境との調和などを体感することで、建築が地域の中でどのように息づいているのかを丁寧に確認しました。そこには、図面だけでは伝わらない、使い手の暮らしや時間の積み重ねが確かに存在していました。今後もびわ湖のほとりから生まれる建築が、地域の誇りとなり、新たな価値を創出し続けることを期待するとともに、「びわ湖建築賞」がその歩みを支え、広く社会とつながる場として発展していくことを願っています。